洋花SSまとめ②
お前だから
許されているな、と折に触れては思う。
たとえば頭に触れた時。リーゼントだった時分とはまた違った意味で、お前は刈られた頭を触られるのを嫌っていた。 触り心地が良いと聞いた野郎どもの手を払い除けては、何人たりともオレの頭に触れさせん!と威嚇をしていたが、 その実お前も自分の髪の感触に愉しさを感じていたようで、いつからかお前には髪を前から後ろへと撫でる癖がついていた。
そうやって頻りに撫でるものだから、オレもつい魔が差して、 お前がオレの部屋で漫画を読んで寛いでいる時に後ろから触ってしまった。 毬栗のように刺々しい髪の毛は存外に柔らかく、しょり、と音が聞こえそうで、手のひらで軽く押されてくにゃりと曲がった。
即座に勢いよく半身を曲げてオレを見る。オレも咄嗟に手を頭から外して胸元まで上げた。 天井の白い明かりが反射してお前の目が猫のようにキラリと光っていた。
オレは、ああ、これはいけねぇ、怒鳴られると思った。
しかしお前は何も言わずに、オレをちょっと見つめたあと、オレが口を開く前にすぐに身体を戻して、 再び漫画を読み始めた。なんだお前か、と言っているような顔で、まるで何事も無かったみたいに。
オレはまだ片手を上げたまま、お前の後ろで突っ立っていた。手のひらに残る毛先の感触と、今さっき起こった事をじっと噛み締めながら。