洋花SSまとめ

飽和

お前が過去を振り返る時は決まって心が弱っている。

寄せては返す波の音に掻き消されそうなほど小さく、ぽつりと呟いた言葉を洋平は聞いた。 夕焼けに照らされて生暖かい砂浜に手を埋める。生暖かいのは表面だけで、奥は冷たくて気持ちがよかった。 洋平は顔を上げて飛び交う鳶を眺めた。鳶はまだ執拗に、人間が食べ物を手にしていないかと探しているようだ。

彼の言葉に返事はしない。慰めも励ましも今は求めていないのだ。あたかも聞こえていないかのように、ただ洋平は傍らで、少し距離を置いて座り続けた。

お前が何を考えて、己をどう思おうと、オレは傍に居る。それが彼の答えだった。ただそれだけを答えとしてきたのだ。

洋平は深く息を吸い、潮風と熱の篭った空気を肺に満たした。