習作
快楽に全身の産毛を逆立たせ、赤く火照った身体を震わせて、 うつ伏せになって枕に顔を埋めていた花道はくぐもった声を漏らした。彼の背中に寝そべるように肌を密着させた洋平が、 花道の脇腹のすぐ横に折り曲げて立てた腕を支えとして緩やかな律動で腰を前後に揺らす度、臀部の奥から背中へ頭へと電流のように快感が花道の身体を駆け巡った。
痺れるような刺激で身体が強張り、穿たれた孔はキツく口を窄めたまま半ば押し込まれる形で洋平の尽きることのない熱を持った肉棒を受け入れた。 洋平にとってはその痛いほどの締め付けが却って快感を増幅させ、唸り声を上げて緩々ながらも執拗に、貪欲に同じ動作を繰り返した。
背中から聞こえる洋平のその声は、地を這うように低く濁っていながらも、艶のある魅惑的な声をしていた。 洋平が獣のような声の合間に何度か、花道、花道と口にする度、熟れた果実がどろどろと甘い汁を出すように、花道は快楽に脳内を侵された。
恋人として結ばれてからの花道は、洋平の声に滅法弱くなった。 殊に色事においては洋平の声は抗いがたい力を有しており、花道の耳に妖しく響いた。
洋平もそのことをよく心得ていた。自分がため息を吐くように静かに、艶やかに名前を呼べば、 それまで聞こえていた喘ぎ声が途端に止み、ただでさえきつく締まっていた後孔が鬱血しそうなほどに一瞬間強く締め付けてくる。
またこの男は、その声で要求すれば花道が断りきれずに呑んでしまうことも、よくよく熟知していた。
「顔を見せてよ、花道……」
腰の動きを止め、熱棒を抜いて花道の耳元に唇を寄せて囁くと、花道は一瞬間呼吸を停止させて、 洋平が自分の上から退くのを感じた後にのろのろとした動きで上半身を少し浮かせて仰向けに寝転がった。
先程まで花道の腹の下に敷かれていた薄手のタオルが彼の体とシーツに挟まれて、 衣擦れの音を出して皺を寄せる。タオルは彼の体液を含んで湿り気を帯びていた。
花道の顕になった性器は頭を垂れて、先端から涎のように透明な汁が腿の間を伝っていた。
「脚を開けて」洋平が命令すると、花道はやおらに開脚した。それまで洋平のモノが入っていた秘部は、 未だぽっかりと口を開けたままだ。花道は己の顔を隠すように片方の手の甲を額の上に置いた。しかし洋平はそれを許さない。
「手、どかして」
洋平の言に花道は半開きの口から熱い息を吐き、手を布団の端に置くと折れ曲がったシーツを握った。 熱に浮かされた蕩けた顔で、恥じらいと情欲の色が混じった目を下目がちに洋平に向けた。
膝立ちで花道を見下ろしていた洋平はにじり寄って花道の片方の足の膝裏を掴み、 脹脛を自分の肩の上に置くと、コンドームに包まれた己の仰け反るように上を向く竿の根本を持ち、花道のはくはくと動く後孔にあてがった。
ぬぷぬぷと入る肉棒は鉄のように硬く、雁首が肉壁を抉るように擦り、花道は堪らず首を反らせて声を上げた。
「ああっ! あぁー……あー……っ」
吊り上がった眉を顰めて口の端から涎を垂らして喘ぐ花道のはしたない顔に、洋平は己の唇を舐めた。
褥の上での花道の姿は尽く洋平の嗜虐心を煽った。元々サディスティックな性質のあった洋平を、 花道が図らずも開花させたのだ。普段は喧しく溌剌とした太陽のような男が自分の下で必死に声を押し殺して快楽に身を捩らせる姿は、 まるでこの手で彼を穢しているようで、酷く背徳的だからこそより洋平の気持ちを昂らせた。 また恋人に奉仕することに喜びを見出している洋平にとって、自分の指先一つで淫らに反応してくれる花道の敏感な身体は尽くし甲斐があり、 同時に弄び甲斐もあって愉しくて仕様がなかった。
洋平は再び腰を動かせた。花道のとりわけ反応の良い場所を穿つと、狙い通りに花道の口から上擦った声が漏れ、中の痙攣も大きくなった。
「ようへぇ……っ!」舌足らずに洋平の名を呼ぶ。両の腕を伸ばして、洋平の背中に回すと、 洋平はゆっくりと背を曲げて花道の腕の中に収まった。時々ヒクヒクと動く花道の喉仏に顔が寄る。花道は脚も洋平の腰に回して、強く強く洋平を抱き締めた。
花道は行為中に抱きつきたがる。身悶えるほどの快楽に襲われ、止めどなく溢れる洋平への感情を抱きつくことでそのまま洋平にぶつけた。 圧迫感に洋平は高揚し、より激しく律動を繰り返した。
頭上から花道の縋るような切なさのある声がする。
「もう、イく、う、はぁっ……!」
「一緒に……」洋平は囁き返した。
深く打ち込むように雁首が肉壁を擦る。痙攣を繰り返す襞に竿を締められ、 洋平はコンドーム越しに花道の中で射精した。同時刻に花道も一際高く声を漏らして、射精の伴わない絶頂をした。 肚の中の激しい痙攣が、洋平の肉棒を絞り、未だ竿の中に残る精液を全て吐き出させた。
洋平はやや身を起こして後孔から肉棒を抜くと、ぐったりと脱力して腕を下ろした花道の口に唇を寄せた。息を荒らげながら、花道は薄い唇を開けて口付けを交わす。
接吻をしながら洋平が花道の手のひらに指を絡める。花道は目を細めて握り返した。